こんにちは。トレイルランニングスタッフのマサヤです。
先日、地元名古屋で《East Mountain100》という自主100マイル(およそ160km)イベントを開催・完走してきました。今回は開催に至った経緯と走った体感、感想などを書きます。
そもそもEM100とは?という所から書いていきます。
まず走る場所は僕の地元、愛知県名古屋市にある東山一万歩コースという誰でも気軽に自然を感じられるウォーキングコース。普段は近所の高齢者の方が健康維持で歩かれている姿をよく見かけます。
このコースの一部を変更して作ったのが今回のコース。
東山=East Mountainを100マイルするということで《East Mountain100》という名前をつけました。ロゴも知り合いのデザイナーに作ってもらいました。
大会というわけではないので、参加費も賞品も表彰も何もありません。
エイドも全て自分(とサポート)で全て賄います。
いわゆる〈草〉ランニングイベントです。
あくまで〈イベント〉であり、〈レース〉ではありません。
タイムを競い合うのがレースの特徴。各々が目標を立てて勝手に走るだけなので〈イベント〉と称しています。
2年半ほど前、まだ100マイルという距離に挑戦したことなかった僕は30歳という区切り、前職を辞め一時的に海外へ渡航するタイミングで一度試してみたいと考えていました。
とは言え、急に公式のトレイルランニングレースに参加できるわけではありません。
「じゃあ近場でやっちゃおう」と考えたのが始まり。
ついでに周りのランナーやトレイルランに興味はあるけどやったことのない知り合いも一緒に楽しめるよう〈自由参加型イベント〉という形にしました。
『僕は走るので走りたかったらご自由にどうぞ。何かあっても自己責任で』のスタンスです。
これは現在週一ペースで開催している《高尾を走ろう》の考え方に繋がっています。
で、2年半前は途中サポートがいたり、ペーサーを買ってでてくれた友人もいましたが基本1人で走りました。結果は100km手前で人生で初めてひざが痛くなりDNF(Do Not Finish=リタイア)。
もしかしたらまだ走り続けられるかもしれなかったですが、満身創痍だった僕は悩んだ挙句やめることにしました。身体の痛みよりも自分の精神的な弱さに泣きました(本当に車の中で泣いてました)。
そんな前回から時が経ち、どこかで再挑戦してみたいなと考えていた矢先に新型コロナウイルスの蔓延。トレイルランニングレースはことごとく中止となり、多くのランナーが目標を見失っていました。
夏を過ぎ、徐々に制限付きではあるものの大会が開催されるようになったものの移動や大規模なイベントに不安感を感じている方がいるのも事実。
そこでまた「じゃあ近場でやっちゃおう」と企画して開催に至りました。
開催にあたり、ウェブサイトやSNSアカウントの作成、コースレイアウトをお世話になっている名古屋の老舗アウトドアショップ『Outdoor Speciality MOOSE』スタッフであり、グループランニング〈Run to be free(RTBF)〉主宰カズミチ氏に相談しながら前回よりもよりしっかりした内容で取り決めていきました。
スタートは10/30(金)21:00。RTBFと同時スタート。
天候はずっと晴れ予報。気温はスタート時は10度ほど、日中は20度を超える程度で走りやすい良いコンディション。
EM100は自由参加なので100マイル以外でも「〇周目標」や「朝まで走る」「100km超える」など各々が自分で目標を決めて自分で達成を目指します。
誰かに「走れ!」と強制されることもありませんし、リタイアしても誰も責めません。
『いつどこで足を止めても良い』のが時間経過とともに精神を蝕みます。
100マイルを目標としたのは僕を含めて3名。
簡単にブリーフィング後スタートしてから1周はRTBFと一緒に走るパレードラン。ゆっくりペースで走ります。
2周目からは各々のペースで好きなように走る。ここからが自分との勝負。
大きな大会と違い、ランナーが数名しかいないので基本は1人で走ります。
最初数周は知り合いと話をしながら走りましたが、5周目に入る頃には日付変わって深夜1時ごろ。
RTBFに参加していた10数名は帰宅し、ここからが本番。夜の闇との戦い。
住宅地から離れている駐車場がエイドなので人の気配は全くありません。
砂利を削る足音と動物園内からたまに聞こえる鳴き声だけの静寂が続きます。
コースは踏み固められて走りやすいものの硬く、脚への衝撃がダイレクトに負担をかけます。
目標は33時間以内、あわよくば30時間切りを目指していたので1周1時間で戻ってくるペースを心がけていました。
夜とは言え、スタート直後は元気で45〜50分/周の良いペースで走れていました。
「これなら楽勝だな」と慢心していた序盤。
スタートから8時間、時刻は10/31(土)午前5時。これまでの好調はなんだったのか、と思うくらいの睡魔と気持ち悪さを感じます。
これまでの経験上、長距離長時間のランニングでは開始14〜20時間程度で眠気を感じることがほとんどでしたが、スタート前に仮眠があまり取れなかった、夜スタート、補給食を多めに摂取していたことによる消化不良と血糖値の乱降下も重なり、ペースが維持できなくなってきました。
午前5時は山の中だとまだまだ暗く、一旦ベンチに腰掛けて5分ほど目を瞑るなどなんとかやり過ごそうとしていました。
内面的な不調の加えて最初にペースをあげたのと硬い地面による衝撃で太ももの裏(ハムストリング)の緊張が強く出ており、肉離れをするのでは?という不安もあり歩く時間が長くなってきました。
こういった不調に陥ることは必ずあることですが、その対処法は人それぞれ。
きついけどそのまま前に進み続ける、一旦落ち着くまで待つ、リタイアするなどなど。
僕の場合、タイムを狙っているわけではないので「とりあえず寝る」選択をします。
寝ている間に消化が促されるのと眠気が解消されてその後気持ちよく走ることができるからです。
スピードよりも快適性をとります。
ハムストリングの緊張に関してはテーピングをしたことで予想以上に違和感が消失し、少し長めの休憩(30分程度)が功を奏しました。
その後は2周走ったら15分休むのリズムで淡々と周回数を重ねていきます。その頃には日も昇り順調に走り続けられました。
スタートから20時間経過。時刻は10/31(土)午後5時。2回目の夜を迎えます。
この時間帯から気温も下がり始め、薄手のフリースジャケットやソフトシェルを着用するようになります。
もちろんヘッドライトも使いますが、2回目の夜からはチェストストラップを使用して胸にもライトを装着する2個使いで走りました。
経験上、光度が下がる(=暗くなる)と眠気が来るので可能な限り明るい状態を維持するように心がけています。特に2周目はスタートから24時間ほど経っているので疲労も相まって眠気との戦いが本格化します。
詳しい周回数は忘れましたが、この辺りから軽く幻覚を見るようになりました。転がっている木の枝がヘビに見えたり、木や電柱が立っている人に見えたりなどなど。慣れると幻覚であることを自覚できるのでさほど走りには影響がありませんでした。
この辺りから妻がサポートに入ってくれたおかげで周回ごとに温かいご飯を食べたり、仕事終わりに応援に来てくれる方もいて意外と元気でした。
しかしその頃には自分含め3名いたランナーも僕だけになり、本当に「1人」で走っていました。
毎周回エイドでサポートに会えると分かっていても1周1時間の間は黙々と走り続ける。
登り坂や階段は歩く、平坦と下りは走る。それだけをただひたすら続けていました。
大会でもなく、煌びやかなゴールゲートもボランティアの声援も何もなく、疲れを吹っ飛ばす景色もない、ただ『前に進む』。
いつどこで止めても誰も怒らないし、そもそも1人で勝手にやっているだけなので知られることもない。正直途中でズルしてショートカットすることだって可能。
止める言い訳なんていくらでも思いつく。痛い、苦しい、辛い、気持ち悪い、眠い・・・
それでもなお『前に進む』。
続ける理由を考えてみても「楽しいから」だけでは片付けられない状態でした。
景色の無い場所で盛り上がりも何も無いのが「楽しい」とは到底思えません。
ただ、トレイルランニングを「楽しいから」行うのであればおそらく10周程度で止めていると思います。
「楽しさ」以外に続ける理由を考えてみると『自己満足』『責任』『証明』あたりが思い浮かびました。
◯自己満足→自分でやると決めたことをやり通すことで自己満足感を満たす
◯責任→やると決めて人を巻き込んでイベントという形で開催した責任を果たす
◯証明→現時点でも100マイルくらいは走れるよという証明
こういったことを思いつきましたがこれらも含めて「楽しいから」と言っても良いのかどうかは自分の中でも整理できていません。なんで走るんでしょうか?
そんなこんなでラスト2周はともにEM100を盛り上げてくれたカズミチ氏と妻とゆっくりラン。
怪我もなく、31時間2分というタイムで無事完走しました。時刻は11/1(日)午前4時2分。
僕含めて上記の3名だけの厳かなゴールで幕を終えました。
ゴールテープもなく、メダルもバックルも大勢の拍手も何も無い。ただの100マイル走。
「なぜ100マイルなんて走るのか?」、周回ごとに「まだ続けるの?」「もう十分だよ」と心の弱い部分が語りかけてくるような精神的に追い詰められるようなウルトラトレイルランニングでした。
草ランニングイベントとはいうもののサポートがついてくれたり、応援があったりと結局のところ人に助けられて完走できたようなものです。
これが本当にスタートからゴールまで1人でできるか?と言われると自分でも甚だ疑問です。
個人で行うアクティビティであるトレイルランニングであっても誰かと一緒に走ることで楽しみが増えたり、キツいと感じることも乗り越えていけるグループならではの利点が多くあります。(加えて山での安全性も増します)
同じ場所を一緒に走る、サポートするなどして言語化できないその大変だった経験を共有することでコミュニティが自然と形成されていくのがトレイルランニングの魅力の1つです。
高尾ベースではトレイルランニングの魅力をレースなどスポーツ的な側面だけではなく、山でのリスクや感動も含めて『山を走ることで得られる体験』を様々な形で提供しています。
初めは山でのマナーやルール、安全管理などわからないことばかり。しかし、正しく理解しようとし挑戦する方へはいくらでも応援・アドバイスをします。
100マイルという数字なんかよりも「やってみたい」というその気持ちが大事です。
マサヤ
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